タイニー・ビレッジ その44 |
2017/01/31(Tue)
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「ほらほらって・・・なんか、やけに小さい窓がいっぱいね。あら、開けっぱなし?」 「確か横滑り出し窓っていう窓です。窓自体が庇になって雨は吹き込まないし、この小ささなら人間は出入りできないし、家の中から編戸の網を貼りつけているので虫も入りません。7月から9月まで、24時間開けっぱなしです。熊さんは無精窓と呼んでいます」 「ほおお」 「じゃあ玄関を開けますよ。この家一部屋しかないから玄関というより入り口ですけど。はい。」 はい、と言われても、澄江はすぐには声が出なかった。 「・・・・・・・、、ひ、雛壇?」 まずモルタル塗りの土間があり、土間の部分を幅50cmの帯状に残して、床が貼られている。
床の上50cmくらいの高さににまた床が貼られている。ただし、上の床は下の床より50cmほど奥行きが浅い。更にまた50cmくらい上に再び板が貼られ、これまた直下の床より50cmほど奥行きが小さい。更にさらにまた50cmくらい上に再び板が貼られ、直下の板より50cmほど奥行きが小さい。そして、雛壇とも大階段ともいえるこの段差の蹴上部分は、多分欄間(らんま)だ。 古い欄間を組み込んだ透かしの引き戸。引き戸の奥に何やら色々なものが収納されている。 「きれいでしょう?この木彫りの扉。この扉がないと、安心して寝られないって熊さんが言ってました」 「そうよね、それはそうでしょう。地震が来たら荷物の下敷き確実だものね、この戸がないと」 「はい。そしてここが寝床になります」
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タイニー・ビレッジ その43 |
2017/01/18(Wed)
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ひよりがテキパキと説明した。 「家の中から取り出すより、外から取り出した方が便利なものがここに置いてあります。熊さんの家は家だかコックピットだかわからないくらい空間が少ないので、庭とテーブルと椅子とタ―プが春秋大活躍します。キャンプセットはタ―プやダッチオーブンもあって、熊さんのおもてなしスペシャルの時使います」 ひよりが次に開けたのは、普通のドアの半分ぐらいの幅のドア。そこには、長柄草かきとスコップ、竹箒が入っていた。確かにこれは家の外から取り出せた方が便利だ。 首を突っ込んで見ると、キャンプ用品とスコップの間に仕切りはない。単に出し入れの便宜のために複数のドアが付いているらしい。 「子どもに触られると危ないものは棚の上に置いてあります。私だと鍵の部分に手が届かないので、荒川さんお願いします」
澄江が鍵を受け取って開けてみる。中には鎌と植木鋏が入っていた。 「もともとあった出窓が新しい壁に組み込まれて、出ない窓になっているのも、熊さんの発明です。出ない出窓の窓下はゴミ箱で、外から扉を開けてゴミ出しができます。出窓の出っ張り部分の底がスライド式になっていて、そこを開けると家の中からゴミ捨てが出来るんです」 「それはすごい!」 「でしょう?すごいでしょう?熊さん」 まさしく我が意を得たりという感じで、嬉しげなひより。この子もまだ子ども子どもだったと、澄江はなんだかほっとした。 「じゃあ、さっそく中を見せてもらいましょう」 「いえ、待って、待って荒川さん。他の窓も戸口も見て。ほらほら」
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タイニー・ビレッジ その42 |
2017/01/17(Tue)
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じゃ、ひよ、よろしくね」 蓬生が手を振って去り、蓬生に声が聞こえなくなったところで、ひよりが言った。 「ね、ヨモギばあちゃん、回覧板持って来なかったでしょう?」 「そうだねー。でも、私もよくやるから笑えないわ。 それで、ひよりちゃん、‘陽だまり’って一体何を作ってるの? ヨーリーランドの屋上で」 「‘陽だまり’は干し野菜を作ってます。切干大根、干しシイタケ、干しエリンギ、干し人参、干しピーマン、干しキュウリ、白菜にチンゲンサイ、いろいろです。最近は干し肉も始めました。 町子さんやヨモギばあちゃんは、株式会社いろどりをイメージして目標にしているみたいなんです。‘いろどり’はご存知ですか?」 「もしかして葉っぱを売ってるところ?いわゆる"つまもの"の」
「その通りです。私でももう少しお話しできますが、ここから先はヨモギばあちゃんに聞いて見てください。きっと今夜あたりから荒川さんから電話を待ってますよ。できれば時間があるときに電話してください、ヨモギばあちゃんの話を短く切り上げるのは難しいです。 何しろ今は鍵をあけましょう。どんどん行きましょう」 そう言って、ひよりはどんどん鍵を開けた。 最初のドアを開けてびっくりだったのは、すぐに次の壁が見えたことである。家の外壁のさらに外側にもう1枚壁を設けたのであろう。軒は新たに設けた壁から僅か15センチメートルくらいしかせり出していない。 このせまい隙間に入っているのは折りたたみのアウトドアテーブルと椅子、それから・・・・? 「ここにあるのはキャンプ用品」
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タイニー・ビレッジ その41 |
2017/01/16(Mon)
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「最近老人会のみんなでいっしょに名刺を作ったから、外からのお客さんに渡したくてしょうがないんです」 「老人会で名刺を?」 「はい。町子さんがデザインしたから、カッコいいんです」 そんな話をしながら熊さんちに向かって歩いたのだが、途中からひよりの言葉が澄江の耳を素通りし始めた。目は熊さんちの細部が目に入ってきたからである。 小さな家なのに、窓やドアがやたらに多い。そして数多いドアのほとんどが、人間の大人用には見えない大きさなのだ。ペット用の出入口? いや、あんなに平べったい動物はいない・・・・。 立ち止まってしげしげと見ているところにヨモギばあさんがやってきた。 「お待たせしました。お客さん、ひよはここの案内に慣れていますが、もしひよで足りないことがあれば私を呼んでください。
携帯番号はこれです」 そう言って、ヨモギばあさんはひよりに鍵を、澄江に名刺を渡した。名刺には<授産施設‘陽だまり’/生産加工部チーフ/蓬生妙子>と印刷されていた。そして、授産施設の脇に、<目ざせ株式会社>という手書き文字が加えられている。澄江は自分または母にできる仕事の匂いを感じた。特に手書き文字の部分に。どこまで現実味のある話かわからないが、調査してみることに損はないと、瞬時に判断した。 「ありがとうございます。私は荒川澄江といいます。 あの、実は今、ヨーリー町に引っ越そうか考えているんです。後日、‘陽だまり’について質問の電話をしてもいいですか」 「いいですとも。‘陽だまり’の作業場はヨーリーランドの屋上です。声かけていただいたらいつでも見学できますよ。あ、天気のいい日だけですけど」
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タイニー・ビレッジ その40 |
2017/01/06(Fri)
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「あ、あそこ、ヨモギばあちゃんちです。ちょうど庭にいる。紫蘇かなんか摘んでるのかな」 澄江の返事を待たずに、ひよりは大きな声で20メートルばかり先にいる女性に呼びかけた。 「ヨモギばあちゃーーん。熊さんちに見学の人がきたよー。鍵を開けてくれるー?」 澄江が驚いたのは、語らなくても伝わったらしい。ひよりが小声で説明した。 「ヨモギばあちゃんは65歳。死にそうなお年寄りじゃないでしょう? 5年前に定年になった日から、熊さんが毎日『生きてるか』って声をかけだしたの。」 普通の声でも話せる距離に近づくの待っていたらしい、ヨモギばあちゃんと呼ばれた人が挨拶した。 「こんにちは、お客さん」
「こんにちは。お邪魔してすみません」 「いいんですよ。 回覧板を持って行こうと思っていたところです。 それから、ひよ。 私のことはヨモギねえさんと呼べって言ってるでしょ」 「だからあ、ねえさんなんて言って人を連れてきたら、お客さんがビックリしちゃうでしょう。小学生が姉さんと呼べるのは10代、最大譲歩して25歳までなんだってば」 「しょうがないねえ。じゃ、お客さん、ひよと一緒に熊さんちの入口でちょっと待っててください」 ヨモギばあさんはひよりに話したり、澄江に話したりをして、自分の家に入って行った。 「ふふふ。ヨモギばあさんはきっと、回覧板を忘れて鍵と名刺を持って来ますよ」
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タイニー・ビレッジ その39 |
2017/01/05(Thu)
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「へええ。おためし村ということは、ここにある家はみんな貸家かしら?」 「それが、違うんです。9坪ハウスとキューブ以外は持ち家っていうか、持ち込みです。土地を借りて家を置いてるんです。我が家はヨーリーランドのコンペ作品を買って、移設しました。借地料はヨーリー町の平均値の5割増しだけど、最小単位が駐車場1台分という小さな面積で借りられるのと、ヨーリーランドやエレメンタリーホテルのインフラが使えるのが付加価値なんだって、お父さんが言ってました。正確にはヨーリーランドとエレメンタリーホテルと階下のモールや応接コーナーですけど」 「料理も洗濯もお風呂も、家でする必要はないってことね」 「はい。熊さんなんか家のトイレを書斎に改造してしまいました」 「それって・・・見てみたいな」 「ぜひ見てください。収納の鬼っていうかマニアっていうか。
熊さんちの隣のヨモギばあちゃんが合鍵を持ってますから、ヨモギばあちゃんに鍵を借りましょう」 「熊さんはその、ヨモギさんのお孫さんなの?」 「いえ全然。ヨモギばあちゃんは自称行かず後家の一人暮らしですです。 ただ熊さんは毎日出かける時と帰った時、『ヨモギばあさん生きてるか。死んでたら俺が葬式出すぞ』て声をかけてて、ヨモギばあちゃんは『あいにくだね、今日は用なしだよ』って返事するんです。 ヨモギばあちゃんは『死なないように面倒を見てもらうのが子どもで、死んだら面倒見てもらうのが大人さ』っていつも言ってるんですよ」 「親は子どもの面倒を見るなんて小さいことを言わず、大人は子どもの面倒を見るものだって言い切るヨモギさんはさすがね」
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タイニー・ビレッジ その38 |
2017/01/04(Wed)
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ひよりは晴れ晴れとした顔で澄江に礼を言った。きっと言葉遣いが大げさだとか、生意気だとか、剣突を食った経験があるのだろう、と澄江は思った。たしか赤毛のアン・シャーリーも、芝居がかった話し方をたしなめられていたっけか。 しかし、ひよりのガイドを嫌う大人がいることもきっと事実。子どもが大人の理解できない言葉を使った時、それはどういう意味かととっさに聞けない大人もいるからだ。 「うーん。それにしても、生活感がないわね。ホテルの部屋みたい」 「食器が幾つかあるはずですけど、しまわれていますから」 「食器だけ?」 「食器以外の持ち物は、みんな持って、トランクひとつで留学に行っちゃいました」 「さすがミニマリスト! もしかしてここ、ミニマリストばっかり?」
「キューブも9坪ハウスも、モノをたくさん持ってる人には絶対的に収納不足ですから、なんちゃってミニマリトや若干断舎利の人が多いですね。入居時にはレンタルコンテナを借りて、ここに持ち込めない荷物を預けておくという・・・・・。でも大方の人が、コンテナの中身に手を触れないまま1年経って、中身をみんな手離してしまいます」 そう言ってひよりは笑った。 「持ち物を減らせない人はどうなるのかしら?」 澄江は自分の老親を思いながら、半分独り言のようにつぶやいた。 「そういう人はタイニー・ビレッジを出て、もっと広い家に移って行きます。でも、わざわざ同じような小さな家を買って引っ越していく人もいるんです。タイニー・ビレッジは『小さい家』の体験村になっているみたいです」
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明けましておめでとうございます |
2017/01/03(Tue)
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明けましておめでとうございます。 ふかふか者ですが 本年もよろしくおねぎします。おかげ様で元気でやっております。 書きたいものと読みたいものが多すぎて、ブログが放置気味になっております。クレマチスの世話は手抜き、ふっかちゃんのおっかけはほぼ足抜け状態だけど、元気です。 園芸シーズンが始まる前に、いろんなことを整理して、クレマチス廃園にならないようにしたいと思います。 本年もどうぞよろしくお願い致します。
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