タイニー・ビレッジ その34 |
2016/11/01(Tue)
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12歳の子どもが語るには重過ぎる物語。この子は無邪気な子ども時代を持っていない、またはほとんど持っていない。7歳で親から離されて、他の子どもよりずっと、大人の心証に敏くなったのだ。 痛ましいと思うけれど、置かれた場所で咲いている花を、可哀想がるのは失礼だろう。 「岩山夫妻が里親だとは、わからなかったわ」 「岩山の母のことは春さんと呼んでいますから、気付かれないことも多いです」 「お父さんも名前で呼ぶの?」 「父のことはお父さんです。私にとって父は一人だけですし、父は、小学生に『直さん』て呼ばれるのが嫌なんだと思います」 ひよりは嬉しそうに笑った。ひよりが悪口めいたことを言える相手が、岩谷直さんなのかもしれない。
「春さんは、私に時間をくれたんです。病気で、私の名をよぶこともできなくなったけど、私のお母さんは生きています。 春さんは私に、『ひよりちゃんは私のことを何て呼んでもいいわ。春さんでもお母さんでも叔母さんでも。 そのかわり、ひよりちゃんが何か失敗をして、謝っても済まない時や、謝れない時は私にいうのよ。必ず私が一緒に謝ってあげる。子どもは失敗しながら大きくなるのだから、安心して失敗して。ひよりちゃんが失敗しても大丈夫なように、私が里親になったんだからね』って、そういうんです」 「それはいいお母さ・・・じゃない、いい里親だわね」 「ええ。でもこれ、殺し文句ですよ。もう春さんの悪口は絶対に言えません」 それは、悪口を言う必要がないのと同義なんじゃないか、そう思えるひよりの笑顔だった。
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