「よく見てください。メロンパンじゃなくてブール。丸いフランスパンです。外壁は黒。人呼んでブラックブール」
「体育館かしら?」
「元、体育館です。外側は何だこりゃな感じですが、床材は桜、その下のクッションは全英選手権で使用するものと同じ。音響、防音の良さはピカイチの、社交ダンス専用競技場です」
「なぜまた、ダンス?
こんな小さな町で、体育館一つ分の、社交ダンス専用施設を作って、稼働率はどうなるの?」
澄江は、目の前でふるさと納税がどぶに捨てられているのを見たような、悲痛な声を上げた。
「それが、中学校2階の男女別合宿部屋、素泊まり2000円とセットでよく回転してるんです。夏休みにここが空いている日は僕が知る限りありませんでした。
社会人利用者はエレメンタリーホテルの方を使うことも多いようです。
先輩の話を聞くと、ダンスの団体だけでなく、吹奏楽団や和太鼓チームなど、音楽関係の練習や合宿もよくあるようです。
生演奏での舞踏会ができるよう、思い切って防音性を高めるリノベーションをしたのがよかったようです。低床型ステージなので、楽器搬入も楽々行けます。」
「低床型ステージって、高さどれくらい?」
「50cmです。スロープは常設」
「よくステージ下にしまってあるパイプ椅子はどうしたの?」
「リサイクル業者に出したんじゃないでしょうか。今は、元体育用具室に軽量のスタッキングチェアが100脚か200脚入ってます」
100か200とはずいぶん誤差が大きいが、栗林は建築科の学生であって、町の行政職じゃないから、まあしかたがない。