タイニー・ビレッジ その10 |
2016/09/30(Fri)
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同じ材質の面が長く続いたほうが広く感じる、という効用もありますしね。 そうだ、視覚効果としては、小上がりの奥に付いた掃き出し窓から続く縁台もそうです。どうぞ上がって、掃き出し窓を開けてみてください。3枚ひき戸で、ここからの出入りもできます」 「あら、軒が深い上に庇もあって、雨の日に重宝しそう。・・・・でも、軒と庇の両方必要なの?」 「実は庇と縁台は雨戸を上下に開いたもので、ミセ造りといいます。開口部の大きな窓は気密性が低いので、必要に応じて上下開きの雨戸でカバーするんです。庇に見える上の雨戸を上ミセ、縁台になる下の雨戸を下ミセといいます」 「じゃ、上ミセだけ開けると普通の窓、下ミセだけ開けると地窓風になるってこと?」 「はい、じゃあ庇っていうか上ミセだけ下ろしてみますね」
栗林がスイッチを押すと、するすると庇が窓上部にはりついて雨戸となった。 「ほう。これが地窓風ね。軒が深ければ、雨の日にも地窓から出入りできるというわけね。 で、地窓状態で引き戸の窓を開けてみると・・・・・。あら、にじリ口みたい」 「はい。茶室の入口を思い出しますよね。にじリ口は幅も高さも65cmくらいですが、3枚引き戸を目いっぱい開けると幅120cm高さ90cmあります。縁台に一度腰掛けて、いざって畳に上がる分には、高さは1メートルも必要ないんです。 勿論上ミセを上げていれば立って出入りもできます。 通りがかった人が縁台に腰掛けて、住人と話し込んで行くのをよく見かけましたよ」 「え、ここに住んでいる人がいるんですか?」
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タイニー・ビレッジ その9 |
2016/09/29(Thu)
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澄江はそれまで、車椅子に乗った母親の姿を思い浮かべるばかりだったが、キャスター付きの椅子で、洗濯機から冷蔵庫へと移動していく母の姿を思い、ちょっと笑みが漏れた。空想の中の母が、子どものように椅子を漕いでいた。 今回は治って歩けるようになるかもしれないのに、いつの間にか自分が悪いケースばかり心配していたことに澄江は気づいた。 自分が先に悲観的になっていては、痛みにうめいている母が希望を持てるはずがない。 明るい面を見よう。幸い、栗林くんは鳥取砂丘の太陽のように、隈なく明るいガイドぶりである。 「この家は深綾工業大学の作品です。 畳敷きのところ以外はすべて土足または車椅子で移動できます。
床材は水と汚れに強いコルクを使っていますが、腰板も同じコルクです。車椅子に乗った人がぶつかった場合、衝撃が少ないようにです」 「腰板ってこれですか?」 「はい。壁の下部、床から腰の高さまでに張る板です。ただしこの家では車椅子に乗った人の頭の位置まで、壁をコルクで覆っています。腰板ならぬ頭板でしょうか 」 「そういえば、畳敷きのところも他と同じ高さの頭板なのね?」 「はい、畳の高さを車椅子の座面の高さに合わせていますから、同じ高さになります」 「畳の上では車椅子をぶつけたりしないでしょう。頭板はいらないんじゃない?」 「小さい家ですから、畳室の頭板部分は壁であると同時に作りつけの背もたれになります。
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タイニー・ビレッジ その8 |
2016/09/28(Wed)
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「自家用トロッコの軌道です。本体は今、裏庭側に行っていますね。トロ127形です。学生が発注者に頼まれていないのに勝手に提出したプランですが、『自宅の庭を自分で見て歩く楽しみを味わってもらいたい』という発想をよしとして実際に敷設されました。いすがサドル式ですが、本当に体に不自由な人が利用するときは、その人の状態にあった安全な座席にカスタマイズする必要があります。今は来場した子どもさんに大人気で、僕たちは閉園後にしか乗れません」 と、栗林は笑い、小さな家の玄関ドアを開けた。
「まあ」 澄江は当初、まあ、としか言えなかった。外開きの玄関を開けると、左は三畳の小上がりで、小上がり以外は全て水回りだった。室内で最初に目に入ると思っていたベッドは、なかった。
正面の壁際に、奥の一辺を壁に、右の一辺をガスレンジにくっつけた形でテーブルがある。テーブルの入口正面の席は車椅子に乗ったまま使え、もう一方(左方)の席は小上がりの上り框に腰かけて使うようになっている。 澄江の視線を追うように、栗林が説明した。 「テーブルの角を落としているのは、車椅子でぶつかったときに怪我をしないようにです。小上がりは高さを45cmにして、車椅子から乗り移りやすいようにしています。 テーブルは調理台で配膳台で食卓。座って使うシンクは洗面台兼用、洗濯機はドラム式で座って取り出しやすい高さ。どれもこれも健常者が使うときは椅子にかけて使用していただくようですね」 「そのときはあちこちに椅子が必要ですねえ」 「事務用の椅子をゴロゴロってやれば1脚で済みますよ」
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タイニー・ビレッジ その7 |
2016/09/27(Tue)
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村と言っても、校庭に2m幅のゴムシートを十字状に引いて、4つの区画に分けただけ。 その1区画に小さな家が10軒建っている。家と家の間はチェーンスタンドで仕切ってあるだけ。 どの家もエントランスルートは道路と同じゴムシート。庭木も柵もない上に、一面の芝生でである。 おまけに、全ての家が2m道路からすぐ近くに位置しているので、メインの庭が道路から遠いところに出来、それぞれの芝生がつながってが一体化しているのだ。繋がった芝生の中央にベンチとパラソル付きのテーブルがしつらえられている。 建っている家に統一感はまるでないが、コンペ‘村’と言えるだけのまとまりが感じられると澄江は思った。 それにしても、大きなおもちゃのような小さな家で、両親が暮らせるだろうか。
歩いた道を振り返って澄江は聞いた。 「このゴムシートは車椅子の人のためですか?」 「そうです。もともと校庭で平らですから、これで十分な2m道路です。このシートがあると雨の後でもぬかりませんから、車椅子も動きやすいですし。 あ、じゃあ、最初にバリアフリー一戸建てを見ましょうか」 「ええ。ぜひ」
澄江が想像していたのは、病院の特別室のようなものだった。車椅子で動ける隙間がある、ベッド中心の部屋。あらゆるところに手すりがついている。そんな感じ。 栗林に連れて行かれたその家は、家より前に庭にレールが敷かれているのが目についた。 「これは何でしょう」
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タイニー・ビレッジ その6 |
2016/09/26(Mon)
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「大和工業大学4年の栗林です。よろしくお願いします」 現在就職活動中なのか、滑舌のいい爽やか男子である。 「荒川です。よろしくお願いします。・・・あの、窓口の彼女はガイドには出ないんですか?」 「あ、杉山ですね。すみません、ガイドが出来るのは4年生か、大学院生ということになっています。本学科のルールで。」 「コンペ?」 「はい。ヨーリー町から、埼玉県と群馬県内の建築士要請コースを持つ大学に、注文が来るんです。六大学の学生が、設計図と模型で競い合います」 「毎年って・・・一体どんな注文があるんですか?」 「基本的に、10坪の土地に建てる家ですが、5年に一度は20坪の土地に建てる家の注文が出ます」 「10坪の? 10坪の家ということですか?」
澄江は話が大きいのかみみっちいのかわからなくなってきた。 「いいえ、10坪の土地です。建蔽率は80%ですから、最大で8坪。単身または夫婦用ですね。 年によってテーマが違って、【ミニマムバリアフリーハウス】とか【オフグリッドハウス】とか【モバイルハウス】とか。【8時間でできる家】もありましたね。コンペ5回目と10回目が20坪で、【親子4人の10坪の家】、【連結するスモールハウス】でした」 だんだんみみっちい話のような気がしてきたが、栗林君は勢いづいて、説明するのも楽しげだ。 「学生にとって、自分が引いた図面が本当に建つというのは、最高の経験です。第1回の採用はうちの大学の先輩ですが、建築士になってからも何度もここに様子を見に来て、メンテナンスが必要なところがないか点検してるんですよ」 そんな話をしながら、コンペ村に到着。
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タイニー・ビレッジ その5 |
2016/09/25(Sun)
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とりあえず場内マップをもらわないと、頭が混乱しそうである。澄江は案内所のゲルに向かった。 ゲルとはモンゴルの遊牧民が使う移動式の住居で、円柱状のテントのようなもの。中国語ではパオという。 ゲルの入口は開けっぱなしになっていて、入ってすぐが案内所のカウンターである長机だ。入口以外の場所も垂幕が巻きあげられているので、長机と長机の後ろにいる人が見えた。 受付の、・・・後ろで何? 炊事をしている? 受付で100円を払って会場マップを買うやいなや、澄江は訊いた。 「あの人たちはここで何をしてるんですか?」 この質問に慣れているのだろう、学生らしいこの案内嬢は 「生活してます」 と言ってニッコリ笑った。
「建築コンペで入選以上の成績を収めた学生のいる大学の学生は、このゲルで生活する権利をもらえるんです。 ここで来訪者のご案内をしていると、いろいろな人の作品への反応を直接感じられるので、すごく勉強になります。観客が多い時期の案内役は競争率が高いんですよ」 「へええ。そうなんだ。ここで何人暮らしているの?」 「今は、8人です」 「あら、そんなに?」 「これから大学に行って授業に出て、家に帰る人もいるので、夜は6人になります。今なら人数に余裕があるので、お一人様からガイドをつけられますが、よかったらいかがですか?」 「それは助かるわ。先達はあらまほしきものだものね」 「はい。では、栗林さーーーん」 振り向きざまに、案内嬢は奥にいる学生を呼んだ。
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タイニー・ビレッジ その4 |
2016/09/24(Sat)
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ヨーリー町が(財政再生団体にならないための)地域創生企画として立ち上げたのは、実験住宅村『タイニー・ビレッジ』だった。
荒川澄江は両親のために介護休暇を取得して、ヨーリー町の実家に戻って来ていた時機にタイニービレッジを見学した。 澄江の父は前立腺がんだったが、進行が遅かったので定期的な通院をしながら在宅療養ができていた。ところが元気なはずの母が交通自損事故を起こして入院してしい、母が入院している間の父の世話が喫緊の問題となった。その上、事故を起こした高齢ドライバーの母に、再びハンドルを握らせるのを避け、その上で病院通いがだんだん頻回になるだろう両親の生活の方法を案出する必要があった。 自分が故郷に職を得て両親のそばで暮らすという方法もあるが、職がなければ夢でしかない。
澄江は最長で半年の介護休暇の間に、できることならなんとかするし、できなくても何とかしなければならないのだった。
澄江はまず、見学者の多様さに驚いた。自分と同じように終の棲家を探すために訪れている中高年、物見遊山の小さい子ども連れ家族、スケッチブックを持ち、人間を入れない写真をバチバチ撮りまくる学生らしき人、ゴム草履履きの近所の子どもなど、何が何だか、である。 事前にインターネットで調べたところによれば、廃校になった中学校の校庭に建築コンペを勝ち抜いた建物が建ち、校舎の方が遊行施設になっている。 隣接している小学校の庭は、実際に人が住んでいるタイニー・ビレッジ。小学校には、診療所、銭湯、コインランドリー、食堂、図書館分室が入っている。
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タイニー・ビレッジ その3 |
2016/09/23(Fri)
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「そう。それが言いたかったんだよ。さすが同世代、察しがいいな」 とコンパ発言の爺さんが相好を崩した。 一方で新人と青年と中堅議員は胸をなでおろした。老人の矜持を損なわずに、本気かボケかを確認するのは危険な賭けだからだ。 珍しく70代トりオがかみ合った会話をしている。今度こそ本当に(財政再生団体にならないための)地域創生が始まるかもしれない。 暴走し始めた馬に引きずられる馬車の御者のように、町長が青ざめている。
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タイニー・ビレッジ その2 |
2016/09/22(Thu)
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と新人町議が声を上げた。学生の生態については、自分がものを言わなければと責任を感じたらしい。 「ファミレスなら‘ゲスト’があるだろう。あれは駅から遠いから駄目か?」 と青年議員が伺いを立てる。60代の中堅、70代の主力議員がうなずきがら成り行きを見守る。 「ファミレスが町に一軒だけってところがねー、淋しいです・・・・・」 新人の返事を聞きながら『そりゃそうだよな』と顔に書いてあるのは、青年議員は中堅議員が聞きづらいことを代わりに聞いたにすぎないからである。 「ない物ねだりをしていては(財政再生団体にならないための)地域創生が始まらないだろう」 と中堅議員が声を上げる。
中堅議員に諌められた形だが、新人議員の顔は明るい。今日も新人としての役目をうまく果たせたようだ。 そしてみなは主力議員を振り向く。さあ、お膳立ては整いました。見せ場ですよ。 「大学を持ってくるのが無理なら、大学生だけ呼んだらどうだ?」 満を持して70代の議員がいう。 「ほう。そんなことが出来るかい。いったいどうやって?」 同じく70代の心友(ライバル)議員が問う。 「その、なんだ、コンパをするのさ」 町が大学生のコンパをあっせんするのか?? 水を打つ場内。 「ジイサン、それを言うならコンペ。コ・ン・ペ・ティ・ショ・ンだ。バッジ付けたまんまボケるな」 3人目の70代が割って入った。
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タイニー・ビレッジ その1 |
2016/09/21(Wed)
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ヨーリー町は人口3万5千人。平成の大合併で近隣の町村が市と合併しため、郡に残った唯一の町になってしまった。 人口が5万人にならないと、ヨーリー市に昇格することはできないが、人口3万人を切らないように維持するのだって容易ではない。大体、町議会のスローガンが財政再生団体にならないための「地域創生」というのであるから、斜陽ぶりが知れよう。 ただし「財政再生団体にならないための」の部分は、印刷はされない。横断幕には「地域創生」だけが書かれ、町を思う町民は「財政再生団体にならないための」を心の中で補って読んでいる。 公言すると危機感で人が逃げるという悪循環になるので、議会も商工会も観光協会もみな思っているが、外向けには言わない。まあ、「財政再生団体にならないための地域創生」は公然の秘密というやつである。
誰かが何か言わねばねらぬ。このままではジリ貧だ。 ある日、何か言うならお前の役目だろうというプレッシャーが町長に口火を切らせた。 「大学を誘致したらどうかな。少なくとも町の昼間の平均年齢が若返る」 ここで拍手が起こったりはしない。45歳の町議が一番の新人で、還暦近くなった議員が青年議員と呼ばれる町議会である。レスポンスはゆっくりだ。 「きれいな空気はあるが、夜のネオンのない町に、大学生が集まるか・・・な?」 と50代の青年町議が自問の声を漏らした。自問だったが、シンとしていたせいで全員に聞こえてしまった。 「ネオンはなくても・・・・。藁藁やらスターバッカスやらがないとマズイですよ。あとファミレスですか」
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ミニマルな町 |
2016/09/07(Wed)
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必要最小限の機能を持つ町とは? 人が集い、町を作る意味ってなんだろう? 小さな小さな町に何が必要か、考えてみました。
 | 著者 : 慶應義塾大学出版会 発売日 : 2016-09-15 |
 | 南日本ヘルスリサーチラボ 発売日 : 2015-09-20 |
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いつの間にやら三番花 遅咲き大輪系 |
2016/09/06(Tue)
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 ラプソディは花数は少ないけど三番花。
ハーグレー・はハイブリッドは何番花なのか、本当はよくわかりません。つるが何本もあって、バラバラな時期に咲かれると、わけがわからなくなります。
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いつの間にやら三番花 ビチセラ系 |
2016/09/05(Mon)
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 マダム・ジュリア・コレボンの最後の二番花を剪定しようとしたら、あらまあ、三番花が咲き始めていました。
ちょっと目を離すとすぐ、虫に食われるベティー・コーニング。「しまった、また丸坊主にされちゃった」と、殺虫剤を持って駆けつけると、既に三番花が咲いていました。 申し訳ない・・・・。
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ポッチャリとセンニンソウと 20160830 |
2016/09/02(Fri)
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左はまれに降りる駅で見たセンニンソウ。 ホームから見下ろす位置に咲いています。
右は某ホームセンターで見かけた苗。 青い方が本当にビチセラなのか疑問で、買いませんでした。 もしやl、ジェニーでは?
我が家のアイメイト・ポッチャリ(実生株。代金を盲導犬協会に寄付するために育てられた、太めの壺)の二番花が色付いて来ました。
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