2015年のクレマチス
![]() ![]() ①三番花の後では観賞価値があるほどの果球ができないことが判明。 剪定はずっと後にするにしても、三番花の後、花殻切りだけするようにしようと思います。 ②自分には、インテグリフォリア系の剪定が困難(>_<)。 いつ切れば適当か判断できず、花殻切りだけの弱剪定になりがちでした。以前、持っているインテがアラベラ一株だけだったときもその傾向はあったんですが、目をつぶってました。インテをふやしてみたら、ヘンダ―ソニーもその他も二番花以降は「ひっきりなし」に「ちらほら」咲いていることになり、なかなか剪定できませんでした。つぼみが見えていてもばっさり切る胆力があれば、もっと華やかにドッと咲かせることができるのでしょうが。胆力を鍛えるか、ちらほら咲きでよしとするかの二択ですね。 ![]() 壺系クレマを寄せ植えにして、一つのオベリスクに絡めれば、たくさんの雫が落ちる滝のようにならないかとトライしましたが、花がいっぺんに咲かず、スカスカでした。裏見の滝ならぬ裏目の滝。来年再挑戦するか、別のテーマで植え替えるか未定です。 クレマチスにハマって今年で10年、やっと自分の好みが分かってきた感じです。(遅い?) 自分は花が上向きに咲く品種が好き。他が「嫌い」な訳じゃないから、持っている品種を処分することはしないけど、横向きや斜め下向きに咲く花は「枯れたら不補充」の法則で行こうと思います。2016年はここ10年で初めての「栽培品種数が減る年」になるか?? (ただしプリンセス・ダイアナは例外。もしも枯れたらまた買ってしまうと思います) |
2015年のドラマ「下町ロケット」
![]() ![]() 我が家も『下町ロケット2 ガウディ計画』を読んでテレビを見ました。 先に原作を読んでおかないと、ハラハラして体に悪い・・・・とは、我ながら小心なことです。 原作とドラマの差異でもっとも大きいのは、盗撮した写真や盗聴した録音が重要な働きをすること。それがあることで、会議参加者の心証は鮮やかにひっくり返るけど、あざといなあと思いました。そんなにもきれいにひっくり返さなくても、雌雄は決するのに。 それとこのドラマ、人の顔の大写し(超アップ)が多かった。人一人の顔を、画面からはみ出すほどの大きさで写されると、面食らうというか違和感ありというか。どんなイケメンでもこういう撮り方をすると気持ち悪いです。 大企業に軽んじられていた小企業が、技術だけを頼みに、大企業にとって「なくてはならない存在」になっていく。汚い手を使った競争者はその汚さの露見で破れて行く。「窮鼠猫を噛む」と「勧善懲悪」が視聴率を取る秘訣? |
2015年のドラマ「偽装の夫婦」
![]() ![]() 同性愛者を差別しないのは結構です。それはいいです。異性愛者が同性愛者と夫婦になったって、本人同士が納得してたら全然かまわない。(ドラマの第1回から8回まではこの範疇だったので、興味深く見てました) でも、差別しないこと=自分が同性愛者になることのようにえがかれると、それは違うだろうと思います。自分のセクシャリティを変えずに、他人のセクシャリティを尊重すればいいじぁないですか。異性愛者だったはずのヒロがしおりの、異性愛者だった保が超治の求愛を受け入れて同棲するようになる第9回は不自然過ぎました。 異性愛者が同性の求愛に応じるって、異性愛者である限り無理だし、性的指向が簡単にコロコロ変えられたら、偽装の夫婦の偽装は必要ないでしょう。面白いテーマだったのに、結末は無茶苦茶だったと思います。残念。 |
2015年のドラマ「ナポレオンの村」
![]() ![]() 高野誠鮮の『ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?』を原案に、限界集落を立て直す「スーパー公務員」の奮闘を描くドラマでした。 一話完結のドラマなので、一話ごとに危機を乗り越え、努力の成果が表れるという都合のよさがありました。必ずしも(ほとんど?)苦労が報われないサラリーマンから見ると夢物語ですが、現実にない夢を見せるのもドラマの役割だから、それはOK。 善玉・悪玉・追従玉等主要キャラクターの役割がはっきりしていて、見るのが楽ちん。かつ、回ごとに登場人物の一人か二人が劇的に変化します。そうして最終的にはみんなが変わっててしまう。なんてスーパーマン!夢の塊! 最終回は、誰かに変えてもらうのを待つのではなく、自分が変わらなければだめだというメッセージが伝わるもので、「よし、見た」という気持ちになりました。ああ、面白かった。 |
大団円
![]() ![]() おっと、館長が間にあいました。実習の講評をしてもらいましょう」 「え? 講評に間に合っちゃったの?! ごめんなさいね、みなさん。実は黒岩さんの方がずっといい講評ができるのよ・・・・・」 「館長、しっかりお願いします」 「プレッシャーかけないでってば。 ええと、まずは3日間お疲れ様でした。私も若い人と一緒に働けて楽しかったです。 今回の実習生はユニークな人材ばかりだったので、『職員で実習生を独占しないで俺たちにも話をさせろ』と利用者から苦情が来てました。『実習生は忙しいんです』と済ませましたけどね。 ![]() あ、除籍というのは、簡単にいえば本を捨てることね。 賞味期限を過ぎた本と後世に残す本を分けるのは、とても難しくて、私はいつも、この作業は本の トリアージのようだと思っています。今回の3人にはぜひ<本の3年検定>の様子を見てほしい。 だから、できれば今後もこの館を利用して欲しいです。手始めに明日の防災の日イベントは入場無料です。ご家族やお友だちと来てくれるのを待ってます。 うちに実習に来てくれてありがとう。 See You Again!」 あまり講評らしくなかったけど、みんな力一杯拍手をして、実習は終わった。See You Again!. |
最終ミーティング
![]() ![]() ②マンガ専用貸本屋:例えばこんなラインナップでこんな値段;遠藤案 ③レンタルベッド(仮眠室):昼寝中の防犯対策;青木案 ④その他・自由記述 最大でも100枚。夢のある読物になっていれば、回答してくれる人が10人でも30人でもいい。3人の実習生が真剣に考えた事例を見て、さらに心きいた案が記述されるかもしれない。もしかしてもしかしたら、これが町おこしの始まりになるかもしれない。 大体こういう計画を、この町の中学生と一緒に真剣に考えることは楽しいじゃないか。 ・・・・ということで、館長から丸投げされた自習最終日の指導役を存外楽しんだ黒岩だった。 ![]() 「はい。青木君が書いたところに、映画『海難1890』のチラシが貼ってあってびっくりしました。さすが<伝言板>ですね」 「そうですか。伝言板だから、たまには否定的な意見や野次みたいな書き込みをする人もいるので、板を荒らさないように管理するのがちょっと苦労なんですよ。でも常に苦労の甲斐があります。今回もプラスな展開になってよかったです」 「ヨーリーブックスさんも見て来ました。自分のポップが本当に売り場に飾られていてビックリしました」 「ふふふ。そうでしょうそうでしょう。コーナーの見出し<台風15号接近中>の数字部分が書き変え可能になっているのは気がつきましたか?」 「はい。そして葛城さんがそろえた気象の本や防災の本、被害個所の修繕用DIYテクニック本までのラインナップがすごかったです」 |
最後の一花
![]() ![]() ![]() 最後の一葉ならぬ最後の一花。、「この花が散った時、何かが消える」のでは困るので、散った日を確認しないようにしていました。「気がついた時は散っていた」なら悪いことが起こる心配はないですからね。 ![]() しかしこれ、なんで今年に限って思い出したんでしょう。 多分、例年に増して「これが最後」がはっきりしていたからかと思います。大概、咲かずに霜に会って終わるつぼみがどこかにあるのに、今年は全然そういうのがありませんでしたから。 ハッ。今年は三番花の後剪定しなかったから?! O・ヘンリーじゃなくて自分が蒔いた種だった・・・・。 |
脳炎沈静化?
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小屋の名はカシワバハウス
![]() ![]() 「平時には無駄なことも、考えておくのが防災です。 館長のお友だちは、安いから高いからではなく、この機会に避難小屋の使い勝手を試してみようと思い立たれたのでしょう。 しかしうちの館長とそのお友だちが揃って、マニュアル通りに組み立てて終わりということはないと思うんですがね」 「うぐぐ。黒岩さんに隠し事はできないわね。明日はまず希望者にこのカシワバハウスで宿泊体験をしてもらいます。あ、普請道楽の名前が柏葉ね。それから、防災の日のイベントが終わったら、半分を家具倉庫にして、半分は仮眠室にしようって言ってるの。ヨーリー町初のカプセルホテルもいいかも」 「えー。古書店にしませんか。せっかく新刊書店と図書館があるだから、あとは古書店がそろえば完璧」 「それを言うなら、ここはやっぱりマンガ専門の貸本屋じゃない?」 ![]() 実習最終日の午後、青木実が黒岩に言った。 「僕たちで相談したのですが、今日のリハーサルで、製品について来たマニュアルがあれば作成手順はわかることがわかりました。それでもし、もし許されるなら、僕たち、ナンセンス・ライブラリーのために作りたい印刷物があるんです」 「へええ。どんな印刷物を作りたいんですか?」 実習最終日、実習生が(黒岩の助けを借りて)まとめたのは<カシワバハウスの使い方アンケート>。 「あなたはこの小屋が何だったら利用しますか」 三択+自由記述式。 |
危険なふたり
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普請
![]() ![]() 「そうだけど、これはホームセンター勤めの友達が、自宅建て替えの間の物置に使うから、明日は解体しないで大丈夫」 「ええっ。じゃあこれ私物ですか」 「そう。借地料を取らない代わりに、私がカギを預かって、時々見学者と一緒に入らせてもらうの。ウインウインでしょう?」 「そうかなあ。あの、このダンボールハウス、いくらするんですか?」 「送料抜きで17万1千円・・・・」 「高い!」「高いよ」「高いね」 「半年使えば1カ月3万円を切るけどね」 「大学生の従姉がアパートを借りてるけど、お風呂・トイレ・キッチンにロフトもついて月4万円だって言ってました。」 中学生女子の経済観念はなかなか具体的だ。 ![]() 一見分系だが実は理系男子だったのか、理詰めの発言をしたのは青木実だ。 「何言ってるんだ。こんな田舎にトランクルームなんかないだろ。それより、これは基地だ。男の遊びなんだよ、損とか得とかじゃないんだ」 勢いよく発言したのは布袋だ。 「寿命が来ても廃棄物にはならない、古紙再生に出せる」 と、援軍を得て急に勢いづいた東雲だ。 「・・・普請道楽」 黒岩が、ぽつりと言った。 中学生はフシンが不審らしく怪訝げな顔をしている。 「普請は建築または土木工事をすること」 |
パオ式
![]() ![]() コクコクとうなづき続けの東雲だった。 『どっちが館長かわからないな』と青木実が思った時、館長が実習生に向けて片目をつむった。前期高齢者の眼はあまりぱっちりしていないのでわかりづらいが、どうもウィンクをしたらしい。 もしかして館長『計画通り』と言いたいのか? 黒岩に牛耳らせるのも計画のうちなら、館長は策士だ。 「さて実習生諸君。今回の小屋はダンボールとテント布で作ります。ダンボールは防水加工されているから、きちんと設計図の通りに作れば6カ月以上の耐久性があります。ただ今日はリハーサルなので、耐久性はなくていい。形を作るのに必要最小限の仮止めで作業しますよ」 「はい」 ![]() 質問に答えるのももっぱら東雲だった。 「わあ、八角形の建物なんですね。どうして八角なんでしょうか?」 「八面体ならどの方角から風が吹いても上手く逸らしてしまえるから。風速25mまで耐えられる設計です」 「これ、使わない時コンパクトにしまえていいですね。何回でも組み立てて使えるんですか」 「解体を丁寧にすれば三回は行けるみたい」 |
仏の掌(てのひら)
![]() ![]() 始めは館長が避難小屋を作るのを取材します。館長に手伝いを頼まれた場合も、一人だけは写真係を残しましょう。行きますよ」 「館長。大人4人で2時間かかる作業でしょう。どうやって人を集めるつもりだったんですか」 キットが入った箱の前で腕組みしている東雲に、黒岩が声をかけた。 「常連さんに頼もうと思ってたんだけど、今日に限ってみなさん遅いのよ」 ![]() 「中学生に危険なことはさせられないわ」 「今回はダンボールのキットですからね。危険はないし、危険な作業が必要な時は、その時だけ職員を呼べばいいですよ」 「それもそうね」 「大体作業の流れが押さえられればいいのでしょう? 本体と屋根を作るところまでやって、屋根を本体に乗せる作業は本番だけにするという手もあります」 「その通りね」 「ただし、常連さんが来たらすぐ手伝いを頼んでください。解体を丁寧にする必要がありますから、解体要員は多い方がいいです」 |
もの別れ
![]() ![]() 「つまり館長は明日、組み立て式住宅の作成リハーサルをしたいんですね?」 「わかりました」 「え? 分かったの? どのように?」 「言いたくありません。失礼します」 黒岩は行ってしまったが、東雲は動じなかった。もの別れは、黒岩が不利な役回りを引き受けた時の習いだった。 ![]() 「おはようございます。今日も私が実習担当をすることになりました。よろしくお願いしします」 「はい。よろしくお願いします」 中学生は素直である。 館長も素直な中学生だった時があるのかな、と頭の片隅で黒岩は思った。 「みなさんが昨日作ったポップは、ヨーリーブックス店長が『いただき』とかなんとか言って剥がして持って行ってしまったので、あとでヨーリーブックスの売り場を見に行きましょう。 それから、今<本の伝言板>にはみなさんのポップのカラーコピーが貼ってありますから、そちらも確認してください」 |
大人の話
![]() ![]() 「ええ、今年は彼ら自身の言葉を少し削るだけで、コピーらしくなりました。布袋君のは本人の書いたまんまですが」 「黒岩さんの添削は、直された人が唸るような切れ味よね。でも、実習生の出来がイマイチだったときの、力技も見たかった(笑)」 「ああ、『13歳のハローワーク』が出てきたときですね。あの時は台風に関係なく好きな本を上げてきたので往生しました。
![]() 「それが今年は時事ネタまで飛び出して」 「映画『海難1890』の関連書ですね。さっき聞いたら、青木君はお父さんと一緒にテレビで映画の予告を見て、興味を持ったんだそうです」 「そうだったの。お母さんの大病は大変だったけれど、父子のコミュニケーションにはよかったのかもしれない。あざなえる縄だわね・・・・」 「はい。それで明日は館長が実習生担当ですよね?」 「そ、それなんだけどね。明日は8月31日でしょ。防災の日に庭でやる避難小屋作りのリハーサルで、私、手が離せないのよ」 「それは隣のふっか市のホームセンターから館長の友達がきてくれることになっていたでしょう? 館の職員のリハーサルは不要では?」 |
ポップに挑戦
![]() ![]() 「え・え・え、ポップになる推薦理由を書くなんて、よく考えないと、時間がないとできません」 「推薦する1点を見つけるだけでもハードだったのに・・・・」 「ふふふ。急にハードルが上がった気がしますか。私は鬼ではありません。考えたり書いたりするのに1時間あげます。推薦の弁はこのポップカードに書いて、選んだ本の書名のそばに貼ってください。筆記具はこれ。さあどうぞ。<実習生:誰誰>の著名も忘れずに」 さらに一時間後、実習生のお奨め本が出そろった。 『小説 あらしのよるに (きむらゆういち)小学館』
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『海の翼 (秋月達郎)PHP出版』
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付き添いサービス?
![]() ![]() 私は自分が連れて行った利用者に平謝りして、ヨーリー町立図書館のレファレンス係に問題を託して、自分だけナンセンス・ライブラリーに戻ってくるんです」 「ああ!レファレンス付き添いサービスじゃなくて、レファレンス引き継ぎサービスなんですね」 「そういうことになるかもしれませんね、遠藤さん」 「・・・・嘘も方便・・・・」 「青木君、そう、それですよ。 ところで三人共、館長の電話のことは、くれぐれも他の利用者に話してはいけませんよ。まさしく企業秘密ですからね」 「わかりました。実習日誌にも書きません」 ![]() それではみなさん、伝言板のここを見てください。さっきの休み時間に誰かが書いて行きました」 「ええと<Q:来週には大きな台風が来そうです。嵐で外に出られない日に、家の中で読む本は何がいいでしょう?>ですね」 「そう、それです。3人で1点ずつ、計3点のお奨め本をお答えしましょう。 では答えを考えながら1時間書架整理。交代でインターネット検索してもいいですよ。ただしネット検索は1人15分までで」 1時間後、3人はもう一度<本の伝言版>の前に集合した。 「お奨め本は決まりましたか? 本のタイトル・著者名・出版社だけでなく、その本を薦める理由を書いておくと、ヨーリーブックスのポップに採用されるかもしれませんよ」 |
レファレンスはクール?
![]() ![]() 「そうですね。いつも、ムック本や、雑誌の特集記事情報を補強して助けてくださいます。ムックの表紙や雑誌の目次をコピーして貼り付けることが多いようですが、どれもビチビチした鮮度の情報でが覚めますよ」 「さすが本屋さん!」 「そうですね。でも、懐かしさで売るのが館長です。昔読んだな、もう一度読みたいなという気持ちにさせるのが上手いんですよ。若い人には、初耳だわ、何それ、知らないとソンかも、と思わせるのが上手です」 「黒岩さんは地味ですね」 「地味に見えますか? レファレンスはハマるとクールですよ。最短距離で目指す情報にた辿り着いた時の快感や、回り道して大きな収穫を得た時の甘辛な感じ、伝わらないかな」 ![]() <本の伝言板>バックナンバーをめくりながら、遠藤が言った。 「これ、ここです、『今度一緒にヨーリー図書館に行って調べましょう』って。他館に職員がついて行くなんて、多分、反則ですよね? あらゆる手を使って調べまくる。なんだかドラマみたい・・・・」 「いや、そんな大層なことではないですよ。ナンセンス・ライブラリーは資料購入費が潤沢ではないので、単価の高いレファレンスブック、事典や辞書のことですがね、それが買えないので、調べ物には向かないんですよ。だから町立図書館のレファレンスサービスに頼ります。でも利用者だけ送り出して僕らがついて行かないと、おじいさんおばあさんは相談することをあきらめてしまうことが多いんです」 『うーん。お年よりは喜ぶだろうけど、町の図書館の人は同業者に見らているとやりづらくないかな?』と青木実は考えた。 |
覗き窓
![]() ![]() 「窓じゃないけどこのすきまを覗き窓と呼んでいます。この窓というかすきまを通して、書架の向こうから写真を撮れば、かなり横長の書き込みも写真で記録できます」 「なるほど。あと、この回答者が名前を書いているのといないのはどんな違いが?」 「もちろんライブラリーのスタッフが書くときはライブラリーの誰誰と署名します。署名のない伝言は時々勘違いや事実誤認があるので、そんな時は内容があやしい書き込みの後に『○○事典で確認してください。ライブラリー職員黒岩』のように付け足したりします。あと常連さんはハンドルネームで書きこむことが多いです。ほらこれ、警察OB杉下左京」 ![]() 「適当です。本に関係ない話題を書かれた時は、その日のうちに消しますし、お見事な応答があった時は3カ月消さないなんてこともあります」 「全部の書き込みを写真で記録して、さらに製本してとっておくんですか?」 「いやいや。『村上春樹はノーベル文学賞をもらえるかな』『もらえるといいね』みたいな、調査確認を必要としない話題は残しません。製本して残すのは、本館なりのレファレンス記録です」 「レファレンスってなんですか?」 「ああ、ごめんなさい。簡単に言うと利用者の調べ物のお手伝いをすることです」 「僕たちもここに書いていいですか?」 「書きたければ書いていいですよ。ただし実習中は質問ではなく、答えを書いてください。『実習生:遠藤』のように署名してね。 |
本の伝言版
![]() ![]() 「コルクシートの下の端っこに画鋲がたくさん挿してあるよ。何か貼りたい人はこれを使えばいいんだね」 「ホワイトボードの下の、マーカーを置くところに、メンディングテープも置いてある。これで、ホワイトボードにも紙が貼れるんだね」 「あ、見て。注意書きがあるよ。ほら」
![]() 「おやおや。みなさん察しがよろしい。説明することはもうないかもしれませんね」 「いいえ。謎が幾つかあるんです。質問していいですか?」 「どうぞ。好奇心は私の大好物です」 「この『ヨーリー町の古地図が載っている本を教えてください』っていう質問、答えを書いた人がホワイトボードの横幅一杯に使って1行で書いているでしょう。こんなのどうやって写真を撮るんですか?」 「何枚かに分けて撮って後で切り貼りする方法もありますが、裏技もあります。後ろを見てください」 3人が回れ右をすると、壁に一番近い本だなの真ん中に、穴があいていた。 |
幸せ
![]() ![]() 「スリリングですか。そうかも知れませんね。潔く、自分の眼鏡違いだったというのはなかなか勇気がいるし、10年経っても鳴かず飛ばずの作家に、それでもこの作家は素晴らしいんだと、言い続けるのは覚悟が要ります。だからきっとスリリングな読物になっているんですね、<10年を振り返る>特集が」 「そうですね。ちっともあるいは細々としか売れてないけど、いつか花咲くって信じてるコメント、まるで担当編集者みたい」 「ああ、たまに読書会に出版社の営業さんが来ることもあるんですよ。ヨーリーブックスさんのつてでね。でも出版10年後の読書会に来て推薦の弁を述べるなら、それはもう営業じゃなくて信念だと、私は思いますよ」 「あるいは愛ですね」「Loveですね」「幸せですね」 「幸せ?」 ![]() 「それに、誰かが『読んでよかった』と思える本に会えたなら、その本を売った本屋さんや、貸出した図書館員も幸せです」 「このライブラリーに来ない人かもしれないけど、印刷する人や紙を作る人だって、10年以上愛される本を作れたら幸せです」 「もう、君たちは・・・・。10分休みにしましょう。私は洟をかんできます」 黒岩は話し終わらないうちに後ろ向きになり、さっさとその場を離れて行った。 |
10年を振り返る
![]() ![]() しかし昨年は朝ドラで『花子とアン』が放送されたため、関連本の出版ブームでした。赤毛のアン関係の本は去年で出尽くしたようです。特にモンゴメリの原作については、当分新訳は出ないでしょうね」 「私まだエミリーは読んでないんです。今度読んでみます!」 「あの、ビミョーにお話が<読書会メモリー>から逸れていませんか?」 と布袋が言った。黒岩の話は逸れても面白いのだが、本来の話を聞かないのもまた勿体ない気がするのだ。 「ああ、そうでした。製本するのを3年待つ理由を話していたんでした。 ![]() 「12月。あった、<この1年を振り返る>特集ですね」 「惜しい。よく見てください」 「あっ。<この10年を振り返る>特集でした」 「そうです。毎年12月の読書会は、10年前の読書会で話題になった本について話すんです。10年前の話題作が、学会とか社会に対して果たした役割や、10年を経てもまだ人を楽しませる力があるかどうかについて。 たまには、自分たちが10年前に画期的な新説だと思ったものが事実誤認による珍説だったとか、歴史を変えるドキュメンタリーと評価した本が全然歴史を変えなかったとかいうことがあって、ションボリしている回もあります」 |
オヤジの赤毛のアン
![]() ![]() 『赤毛のアン』は今年は1冊も刊行されていません。児童向けは別ですが、大人向けのアンだったなら、それは数年前の刊行物ですよ。 『大奥』で12巻というと、コミックスの男女逆転『大奥』ですね。これは確かに発売後3カ月以内だったことでしょう。妻が買っているので私も読んでいます。 さて、今日のメンバーで見る限り、発売後3カ月以内売れた本は3分の1ということですね」 「えー、 じゃ、俺ってもしかしていい客かも。オシム以外はマンガばっかりだし、マンガは大概発売日に買うから。 最近買った本って言われて、無意識にコミックスを外して考えてました」 ![]() 思ったことをそのまま口に出せるって幸せなことだと知っている点で、実はもう大人だった。 「黒岩さん、一体どれだけ出版物の発行年を覚えているんですか? まさか全部??」 「まさか。たまたま知っていただけですよ。もしあなた方から自分の知らない作品名を言われたらその場で調べました。 もしかして遠藤さん、中高年男子、いやオヤジか。オヤジが赤毛のアンを読むの~?って思ってます?」 |
本屋はノーリスク?
![]() ![]() 遠藤が開いていた本を見ながら言った。 「章末ごとに書いてありますね、発行部数、関連本が出たかどうか、文庫化していれば文庫タイトルと解説者、ドラマ化や映画化の記録もあるし、文学賞や文化賞を受賞した時はその記録もある。すごい」 「ふふ。実はこの記録部分を書いてくれているのはヨーリーブックス店長です。彼が長く棚に置きたいいい本でも、返本しなければならない時がある。そんなとき1冊はナンセンス・ライブラリーが買いとって蔵書にしているので、恩義を感じているみたいなんですよ、葛城さん。私たちは葛城さんの選書眼を信用しているだけなんですが」 「あの、本屋さんが返本するってどういう・・・?」 「本屋さんは本を預かって販売しています。 ![]() 「え、そうなんですか。預かって、売れ残りを返してそれで済むなら、本屋さんはリスクが無くていい商売なんじゃ?!」 「詳しいことは明日葛城さんに説明してもらいましょう。なにしろ、およそ3カ月を超えて本を返品しないと、支払いが発生します。本屋さんは3カ月以上かけて売りたい本を多く持ちすぎると、経営が危うくなります」 「3カ月で売り切れる本ってどれくらいあるんでしょうか」 「君たちが最近買った本、雑誌は除いて、今年買った単行本は発売後どれくらいたった本でしたか?」 「僕は『オシムの言葉 』です」 「え、えと、私は『赤毛のアン』です」 「僕は母に頼まれて『大奥の12巻』を買いました」 「『オシムの言葉』は増補改訂版 (文春文庫)が去年の何月だったかに出ましたね。 |
現実と創作の狭間
![]() ![]() 「えー。佐伯先生すごい! 」 「トリックは単純なものでしたが、人物描写が素晴らしかった。登場人物の名前も家族構成もフィクションなのに、読んだ人が事実と混同するので、館内に掲示発表していたのを取りやめたほどです。また同じ理由で、殺される役が必要な時は館長か副館長にするよう、ルールを新設しました」 「誰かに恨まれて殺される役なんて、嫌じゃないですか?」 ![]() と、副館長黒岩は片眉を上げて見せた。 読む人が、本当にあった話?と訝るような小説。それはつまり、地域性と時代性が色濃い小説ってことで、毎年の作品をまとめておけば、いずれそれは小説による郷土資料になるってことかも しれない。と、実は思った。 「あら、これは読書会の記録ですね」 遠藤が製本資料を掲げた。 「はい。<読書会メモリー>は他のオリジナル資料と違って、製本までに3年置いています。3年経つと、本に対する世間の評価もほぼ確定します。読書会で話題になった本が、社会的にどんな評価を受けたかを付記して、それから製本します」 |
ライブラリー文芸
![]() ![]() 「製本についてはまた後で、町立図書館に行って、近代文学館の名著複刻全集や昭和万葉集あたりを見ながらゆっくり講義しましょう。 今はこの当館オリジナルの製本資料をみてください。市販のアルバムである最新刊と、形態以外に何が違いますか?」 「最新刊は日付順に写真が貼ってあって、写真の側に書いてあるのは日付と花の名前くらいです」 「でもバックナンバーは品種別に編集されています」 「その上、名前がしつこくなっています。学名・和名・別名とか作出者名とか」 「はい。一体どれだけ時間をかけているのかわからない、館長の道楽です。 ![]() 館長が自分で撮った写真を使わず、写真コンテストクレマチス部門の入選作を使ったのが勝因だと、私は踏んでいます」 「へえええ・・・」 「あれ? これは?! これ佐伯先生??」 「ああ、それはヨーリー・ナンセンス・ライブラリー文芸です。面倒だからこれからはライブラリー文芸と省略しますよ。 ヨーリー文芸が小説・詩・短歌・俳句が柱なのに対して、ライブラリー文芸は、推理小説、と川柳がメイン。 そして推理小説の事件はかならずナンセンス・ライブラリーで起こすことが条件です」 「何でまたそんな条件を・・・」 「防犯カメラのアピールです」 |
アルバム
![]() ![]() と黒岩が解説した。 【ピクチャーウィンドウ】は窓枠を額縁風に飾り付けただけのもの、窓ガラスに絵や模様を描いてその後ろに背景として実景を見せるもの、マン盆栽か東武ワールドスクエアみたいに、窓枠にフィギアを配置してかりそめの世界を作るもの、色つきセロファンをガラスに切り貼りしてなんちゃってステンドグラスを作ったものなど、アイデアに溢れていて、実はすっかりひきこまれてしまった。 「ピクチャーウィンドウ写真の受付期間は1年中ですが、窓に加工をしていい期間は限られています。2月10日から20日と、8月10日から20日。元はニッパチ月のテコ入れ企画です」 ![]() 「二月と八月。寒さ暑さでお客が減ると言われる月のこと」 と、背後で声がした。いつの間にか布袋と遠藤が合流していた。 「おや、君たち」 「はい。今日黒岩さんの話を聞いておいた方が明日の仕事のためになるから行って来いって、館長に言われました」 「そうですか。明日君たちの指導担当をする館長がそうおっしゃるなら問題ありません。(館長が明日さぼらないなら、本当にいいんですが、あやしいですな) では遠藤さん、下段の、製本したアルバムを出してみてください」 「これですか?」 「そうです。上製本で背文字は金文字箔押し、本館唯一の贅沢です」 |
ヨーリーコーナー
![]() ![]() 「これは本館唯一の作りつけではない書架でラク-ナ書架って名前です。上の最新刊、下にバックナンバーを置いています。 青木君が持っているファイルは上段に置いてください」 「ヨーリーコーナーってヨーリー町のことを書いた本を集める場所じゃないんですか?」 「いい質問です。ヨーリー町の町立図書館はヨーリー町に関する集めています。『郷土資料』という名前のコーナーですが。 我がヨーリー・ナンセンス・ライブラリーのヨーリーコーナーは、ヨーリー・ナンセンス・ライブラリー固有の資料を集めています。隣の建物にあるのと同じコーナーを作っても無駄ですから」 ![]() 「まあ、見てごらんなさい」 「はい」 そこにあったのは<読書会メモリー><ヨーリー・ナンセンス・ライブラリー文芸><ヨーリー・ナンセンス・ライブラリーアルバム><本の伝言板>。最新資料は面陳どころか、見開きにして展示してあったりする。 見開きになっていたのは<ヨーリー・ナンセンス・ライブラリーアルバム>だった。 アルバムはどれもライブラリーの敷地内で撮った写真、または敷地外からライブラリーを撮った写真である。写真タイトルには必ず【クレマチス】【ピクチャーウィンドウ】【ワンシーン】のどれかが添えられている。 |
すこぶる付き
![]() ![]() 「えっ、スタッフの青田刈りですか?」 「いや、これは苗代(なわしろ)刈りです」 「ええ~。僕たち、まだ苗ですか」 「はい。すこぶる将来性のある、いい苗です」 淡々と黒岩が言うと、中学生は黙ってしまった。 大人に真剣に褒められるって嬉しいものだ。ついつい頭の中で、黒岩の言葉を反芻してしまう。もらった言葉を味わうために、黙って、口角を上げて、手を動かしている3人だった。 ほどなくして100枚の栞が、100冊の本に収まった。 「お疲れ様。では、10分休憩の後、この100冊を配架しながら書架整理としましょう」 ![]() 「布袋君が0類から6類まで、遠藤さんは7類から9類まで。青木君は私と一緒にヨーリー本コーナーです」 布袋と遠藤は歯切れよく「ハイ」と答え、それぞれブックトラックを押して動き出した。 青木は「はい」と答えたが、どうしたものかという顔をしていた。 「はい、青木君。君が配架するのはこれ」 黒岩が手渡したのは<これ、もう読んだ?>というタイトルが入ったバインダーだった。 「これはさっき使った?」 「そうです。君たちが作ったしおりのネタ帳。 しおりは無くなりやすいから『この本にはいっていたはずのしおりが何だった知りたい』という人のために、記録をとっておくんです」 |
相違点
![]() ![]() 「違いは、趣味を本職にしようとするかしないかかな・・・・」 「そうか。『ワン チャンス』はその点が違うね」 「その点は『炎の営業日誌』も微妙に違うよ。著者は熱心にバカがつくくらい熱心な浦和レッズサポだけど、<サポーター>は仕事として成立しないから、本職にしようが無いんだ」 「一番の違いは、本職への熱心さじゃないのかな。炎の営業って熱心に営業してるんだろうし、不熱心で作家活動なんて無理だろ。 オペラ歌手を目指してワンチャンスを待っていた人は、熱心に販売員をしていたのかな?」 「うーーん」 「お金を稼ぐのに、常に熱心さが必要なわけじゃないだろ。生きる為の賃仕事だっていいんだ、多分」 ![]() だけど一番の違いは趣味の質だよ。<レッズサポ><ガーデナー><オペラ歌手>が並んだ時、誰がレッズサポを尊敬してくれるんだよ。 俺は、人にどう見られようがレッズサポーターであることを優先する杉江さんの潔さが好きなんだぁ」 「いいね、布袋君。でも手も動かして。しおり紐を付け忘れないようにね」 「はい。黒岩さん、やっぱり僕、提案を取り下げます。相違点が大きすぎると<もう読んだ?>と言われてもピンときません。もう読んだ?て言うためには、それがどうした?って言われないくらいの関連性が必要です」 「提案取り下げを了解します。いやあ、よく考えてくれてありがとう。 |