安全運転
![]() ![]() 「みなさんお疲れ様。今はハイになっていて気がつかないけど、暑い中の実習で体は疲れています。全員安全運転で帰ってね」 自転車で帰宅する3人を見送ると、間をおかずにブックモービルが戻ってきた。 「早かったですね、青木さん。奥さんとあまりお話できなかったんじゃないですか?」 「いえいえ。実が疲れて帰るだろうからあなたも早く帰ってと、妻に追い出されました。 今日は、授業参観にも行けなかった妻に息子の実習を覗かせてもらって、本当にありがとうございました」 深く一礼して、青木はすぐに帰って行った。 「疲れた。疲れたけどいい一日だった」 と明石は一人ごちた。 |
通過儀礼
![]() ![]() 布袋があわてて思い出し報告をした。 「それはもしや外科病棟?」 「そうです。外科の大部屋」 「ならば問題ありません。手術後順調に回復している人への通過儀礼です。 あの本を読むとどうしても笑ってしまって、術後の傷に響いて痛い目に会います。今日<言いまつがい>を受け取った人は、自分用ではなく誰かに読ませるために借りたのでしょう」 「男って、いくつになってもバカなんだ・・・・」 「ご愁傷さま。いいえおめでとう。あなたは今、人生の真理の一つに辿りつきました」 「こんな真理、うれしくないです」 ![]() 「あのー、明石さん、そろそろ時間では?」 「あら大変。ナンセンス・ライブラリーに戻りましょう。今日は開店と出前をいっぺんにこなして、その分早く帰らなきゃいけないんだった。中学生の実習は4時終了だもんね。さあ、撤収しましょう」 本日2度目の撤収なので、仕事は早い。 「では、青木さん。私は実習生を連れて戻りますが、ブックモービルはゆっくりいらしてください」 「はい。では、お互い安全運転で」 <実習指導お疲れさまです。お疲れでしょうが、>という労りを込めて青木茂は言った。 「はい。安全運転で」 <お互いに>を省略して、明石は答えた。 |
黒岩の壁
![]() ![]() 入院期間が短かったから、ここでは読まなかったけど、明石カードの写メを撮って、図書館で探したんです。 自分が生まれる前に書かれた本が、こんなに面白いなんて、びっくりしました」 遠藤発言を嬉しそうに聞いていた明石だったが、「生まれる前に書かれた本」のところでピクリと眉が動いた。 「ああ、それはよかった。探してまで読んでくれたなんてうれしいなあ。しかし南仏プロヴァンスの訳出から隋分たったものね。 病院では読んだ人が明るい気持ちになる本を紹介するようにしてるの。個別に相談を受ければ<ハラハラする本>や<復讐譚>だって紹介するけどね。 ところで、東雲カードも黒岩カードもあったでしょう?」 ![]() 「庭が館長で洞窟が副館長ね。どっちも三行半だったでしょう。あの2人はポップをみくだりはんカードと呼んでるんです。迷惑です」 「でも、どっちも生きる力をめぐる本ですよね」 「そう。微妙にリンクした本を選ぶことはよくあるし、時々同じ本を推してくることもあるんです。ムカツク」 「ムカツク?」 「あ、ごめんなさい。楽屋話だったわ。私たちスタッフはたくさんの本の紹介するために、他の職員が選んでいる本を重ねて選ぶことは出来ない。だけど館長だけはその点が甘くてね、ほとんどフリー。自分が選んだ本を館長も選んでくれた時はものすごくうれしいんだけど、これがなかなか、黒岩の壁が高くて・・・・」 |
ライブラリーの明石さん
![]() ![]() とめずらしく遠藤が興奮気味に割って入った。 「ありがとう遠藤さん。生協の白石さんは私が勝手にライバル視している人だから、白石さんを思い出してもらって、とてもうれしいな。 ところで布袋君。君もいいことを言いました。あなたが回し読みに違和感を持ったのは、それが厳密には回し読みではなく又貸しだからです。 ライブラリーはAさんに貸出した本はAさんに責任を持って返してもらいたい。個人契約での貸出です。勝手にそれを他人に貸与されては、会員費を頂いている他の会員さんにも申し訳がありません。 だけどね、ここは病院でしょう。 ![]() 「退院や転院する人がいるだけでも事故率が高まるでしょう。又貸し容認だと、本の紛失が多くなりませんか」 そう尋ねたのはボランティア・スタッフの青木茂だ。 「そこでデイルームに返却用ブックポストを置かせてもらって、24時間誰でも返却ができるようにしました。隣の部屋の本棚に本を戻すのと同じ感覚で本を返せるように。ブックポストの上に掲示板を置いて、「この本を探しています」とか「この本を見つけた人はこのポストへ」といった一言掲示をしています。催促や注意書きばかりでなく、みんなが読みたくなる耳より情報も混ぜながら」 |
無垢の木と漆喰・和紙でつくる自然素材の家/丸山景右
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実がこの実習に割り振られた理由
![]() ![]() と明石は言い、 「はい」 とだけ実は言った。 「よろしくお願いします」 と青木芳枝は静かに頭を下げ、院内に戻って行った。その後姿を見送りながら 「青木さん、いつもだったら、今読んでいる本の感想を、簡単にお話してくださるんだけどな。聞けなくて残念だな」 と明石がつぶやいた。 明石の視線を追って行くと、病院のガラスの大窓の向こうで、芳枝がこちらを見ているのがわかった。 もの言わず、明石が実を見る。視線に促されて、実が母の姿に向けて手を上げると、芳枝も窓の向こうで手を振った。 ![]() 「問題なかったですか?」 という明石の問いは遠藤に向けられていた。 「異常ありません」 そういう、遠藤の顔が上気している。入院していた時の知り合いにからかわれたか。 「異常ないけど、変です」 と言ったのは布袋。 「あれ絶対回し読みしてますよ。『シルバー川柳5 』を持って行った時、「私が次ね」「俺、その次で」って会話が飛び交ってました。図書館の本を少年ジャンプみたいに回し読みしていいんでしょうか」 「<確かめるむかし愛情いま寝息>か。ここのベストセラーだわね・・・。」 明石は微苦笑で答えた。 |
退院
![]() ![]() 「その本、これが初貸出なので、まだだれも読んでないんです。あとで感想を教えてください」 「返却期限は9月13日になります。どうぞ」 「感想はまかせて。じゃ、月曜日にね」 「ゆっくり読んでください。楽しみにしています」 竹沢さんは本を抱えていそいそと去って行った。 入れ替わりに青木芳枝がやってきた。余りにもちょうどよく入れ替わったので、もしかしたら他の人がいなくなるのを近くで待っていたのかもしれない。 「こんにちは、明石さん。うちの男たちがお世話になりますね」 「いいえ、こちらこそお世話になっています。今年の実習生は大変優秀ですよ」 「ありがとうございます。 ![]() そう言って実の母は会員証カードを出した。 「こんにちは。少々お待ちください」 接客でもともと緊張していたので、これ以上緊張できない実は、マニュアル通りの動きしかできなかった。知らない人が見れば一見何の動揺もなく見えたかもしれない。本から目を離さずに 「お待たせしました。返却期限は9月13日になります。どうぞ」 と、母に本を手渡した。 「ありがとう。明後日の退院が決まったから、この本を返却するときは本館に伺いますね」 と芳枝は言った。 「退院ですか。それはおめでとうございます。 |
大人が作る秘密基地/影山裕樹
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上出来
![]() ![]() 「そうだったんですか・・・。千円なら、単行本1冊借りたら元が取れますね。文庫本なら2冊かな」 「そ。だから院内の売店には目の敵にされてるかも」 「おやおや、そんなことはないよ。私たちがここに来る時か帰るとき、いつもお茶やお菓子を買っているもの」 「あら、桜沢さん。こんにちは。ありがたいけど、食べ過ぎ飲みすぎには気をつけてくださいね。それに、今日は実習生が貸出手続きしますので、よろしくお願いします」 「知ってるよ。城北中学校の生徒さんだね。このジャージの子がうちの方まで走ってくるんだよ。陸上部だって言ってた」 「そうですか。青木君は野球部なんですよ」 「そうかい。青木君かい。青木君、いずれは甲子園かい」 ![]() 「もう、出来たの。実習生でも早いもんだね。ありがとう」 「ありがとうございました」 いきなり会話に入り込んできたおばあさんは、手を振って去って行った。おばあさんが充分離れてから、明石は言った。 「上出来。患者さんは私たちと話すのを楽しみにしてくれる人も多いけど、短く切り上げるのも大事よ。ひいきは禁物なの」 「はあ」 明石に褒められたが、いっぱいいっぱいで作業して、マニュアル通りしゃべっていただけだから、実の返事はハリが無かった。 次のお客は武川さんだった。 「こんにちは。今日は何がお奨め?」 「『使ってみたい武士の日本語』の次の本だったら『これを大和言葉で言えますか?』ですかねえ。」 |
火花/又吉直樹
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出前貸出
![]() ![]() と明石が言った。 ヨーリー病院までは車で10分ほどなので、すぐ着いてしまった。 とりあえず父親と別の班になってほっとした実だったが、仕事を始めてから不安になってきた。 毎日やってくるムックモービルを知っていて、目指してくるのは、近所の人と、通院患者と、入院患者のうち歩き回れるくらい軽傷または回復期の人。・・・・ということは、明後日退院予定の母が来たりしないか? 「あの、どういう人に、病室まで配達しているんですか? あんまり重症の人は本だって読めませんよね?」 と、実は質問してみた。 ![]() 「そうですか。リクエストをくれた人以外にも、ブックトラックで本を持って行ったら、読みたくなる人がいるんじゃないでしょうか?」 「そうね、公共図書館がそこまでできれば理想かもしれない。ナンセンス・ライブラリーは会員制有料図書館だから、頼まれた物は持っていくけど、こちらからセールスするのは控えているのよ」 「あ、そうか。貸出会員は3カ月3千円、1年なら1万円でしたっけ」 |
図書館の水脈/竹内真
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下町ロケット2 ガウディ計画/池井戸潤
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病院での業務内容
![]() ![]() 「青木君のお父さんって一体ナンセンスライブラリーの何なんですか?」 好奇心に駆られて布袋が尋ねた。 「ほぼ毎日奥さんのお見舞いに来ていて、ナンセンスライブラリーの入院患者への貸出サービスをすっかり知り尽くしたボランティアスタッフよ。 もっともナンセンスライブラリー本館が駅近くにあることを知ったのは一週間前だし、ボランティアスタッフとして院内を回るのは今日が初めてなんだけどね。大丈夫よ、このブックトラックに乗せた本はみんな患者さんのリクエスト本で、積み込み前に貸出手続きをしてきているから、ご本人にわたすだけ。返却本はブックモービルに持ち帰ってから返却処理をするんだから。 ![]() 「そうか、僕らはただの運び屋なんですね」 「ううん。それは違う。患者さんはリクエストカードを書けない人もいるから、代筆が必要だし、書名や著者名を覚えていない人もいるから、相手が読みたい本が何なのか突きとめる謎解きもしなきゃならない」 「え。なぞ解きは僕、無理です」 「謎解きが必要な時と、未入会の人が初めて本を借りたいと言った時は私を呼びに来て。一人戻ってきても大丈夫なように、院内巡回に2人割いているんだからね」 「え。明石さんが行っちゃったら、僕が車に一人で残るんですか?」 「そうだけど、その時は来た人には『係はすぐ戻ります』って言っとけばいいから。 |
日常の回復
![]() ![]() 「あの、私は、自分が入院していた時の担当の先生や看護師さんに会うかもと思ったら緊張してしまって」 「元気になって立派にやってるところを見てもらいなさいね」 「ハイ」 「青木君はどうしたの?」 「いや、実習先で母に会うのも不思議な感じなのに、父まで出て来ちゃ、混乱するなと言っても無理です」 「あら、聞いてなかったの。青木君のお母さんは入院患者の中でも5本の指に入る読書家で、うちのお得意様よ。 お母さんは退院してヨーリー・ナンセンス・ライブラリー本館を訪ねるのを楽しみにしていたのに、だんなさんが先にナンセンス・ライブラリーに来ちゃったじゃない? ![]() 「へええ・・・・・」 遠藤は感心したようにため息をついたが、男子二人の方は「何のことやら」という息の漏れ方だった。 「まーったく、男の子は自分のことを親に話すのを面倒がるようになると、親の話を聞くのも面倒になるみたいね」 と明石は言った。いや、そんなことはない。ほんのひと月ほど前まで、実は父や母の沈黙まで聞きとろうとし、ささいなしぐさや溜息から、どこかに嘘が無いかと探っていた。それが、母の病状の好転に伴って急速に緊張が薄れ、親の話への注意が散漫になってきていた。実は明石に反論するのも忘れ、自分に「日常」が戻ってきつつあったのをあらためて感じた。母が治ると決まってから、こんなに、油断できるようになったんだな。と。 |
にょにょにょっ記/穂村弘
![]() 中2病の半歩手前で踏みとどまる著者。 短い文章でも「言えてる」のは本業が歌人だから当たり前か。それとも定型に頼れないのに、短い文章でよく伝えられるなあと感心するべきか。 イラストレーターのフジモト・マサルさんがまことに上手く、世界音痴な歌人の意図を酌んだうえで。素晴らしいフジモトワールドを繰り広げています。特に177ページのイラストは傑作だと思います。 世界音痴だと思っていた著者が、私が中野のお父さんを読んで初めて知ったオイスターバーに、既に行っていたというショック。 吉野家の凋落を知った著者の気持ちが、ちょっとわかるかも・・・・。 |
ブックモービル転進
![]() ![]() 「え? それってもしかして・・・」 「そう。明日は君たちがしおりづくりをするんです。楽しみでしょ?」 「はい」「ハッ」「ハイ」 「よろしい。どうも運動部の二人は反射で返事をしているような気もするけど、前向きなのは確かね。じゃ、明日のことは明日の楽しみにして、ブックモービルを移動します。ヨーリー病院へ」 「ヨーリー病院?」 と行き先に反応したのは青木実。 「ブックモービルの乗車定員は?」「僕は走って行きます。僕なら1時間以内で行けます」 ![]() 「小学校や公民館へは町立図書館のBMが回りますから、我がナンセンス・ライブラリーが行くのは、町内で唯一入院設備のある総合病院です。 で、今日の移動は実習生3人は私の運転する乗用車で移動、ブックモービルはボランティアの青木茂さんが、ここからヨーリー病院まで運転してくれます」 明石はそれだけ説明して、すぐにタ―プを外して畳んだり、駅周りに点々と配置した「ブックモービル開店中」の幟を回収したりの指示を飛ばした。実は頭の中に疑問符満載のまま、走り回った。 3時10分前に乗用車が駅ロータリーに滑り込み、運転してきた実の父は撤収なったブックモービルに乗り換えた。入れ替わりに。明石と実習生3人が乗用車に乗って出発だ。 |
中野のお父さん/北村薫
![]() 「太宰治の辞書」に続いて女性編集者が主人公のお話。 今度のヒロイン美希はまだ若く、編集者にしてはあまり本も読んでいない感じ。 国語教師で読書家の父親に頼ってばかりいる。実家が中野にあるから中野のお父さん。美希が疑問を父親に投げる、電子レンジに食材を入れた時の如く、きれいに答えが出て来る。 しかしこの中野のお父さんレンジは、加熱だけでなく、食材を切ったり調味料を入れたりもしてしまう。 つまり、美希が気がつかない謎(不自然な点)を謎として認識し、推理し、謎を解いてしまうのだ。 読んで面白かったんだけど、もう少し主人公に苦労させないと、読者が楽をしすぎると思うな。 |
食う寝る遊ぶ 小屋暮らし/中村好文
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もう読んだ?栞
![]() ![]() 「え? 読書会?」 「そう。月に一度の読書会。テーマに選ばれた本の購入推薦者と顧問団の中でその本が含まれるジャンルを担当する人は必ず出ることになってます。一般の参加者はテーマの本だけ読んでくればいいけど、購入推薦者は顧問が選んだ参考文献も読んで行かなきゃならないから、結構大変」 「参考文献ってこういうのですか?」 ![]() 布袋が持っているのは「できる男は超少食―空腹こそ活力の源 !」という本と、そこに挟まれていた栞で と書かかれている。 「そう、それが裏の課題図書。この栞はたまたま1冊しか書いてないけど、一番大判の栞は葉書大だからね。5冊くらい書いてあって、全部読むのはなかなか大変」 「<これもう読んだ?栞>を作っているのは明石さんたちじゃないんですか?」 |
顧問団
![]() ![]() 「エロ本も占いも、条件付きOKなんですね。じゃあダメな本ってどんなんだろ・・・」 「それはね、差別を助長する本。そして犯罪被害者や家族をさらに傷つける本」 「・・・・・ヘイト・スピーチ・・・・」 「・・・・『絶歌』」 「ああ、言いたいことは分かってくれてるみたいね。 選書担当は必ず何らかの専門雑誌を継続的に読んでる。因みに私が黒岩さんが「史学雑誌」、館長は「出版ニュース」、私が読んでいるのは「月刊消費者」。根拠のない中傷なのか、根拠のある批判なのかの差は、選書者が無知であってはわからないから、少しでも勉強しないとね」 ![]() 自分が選書した本に、顧問団から『信じる者は救われないかも』シールを貼られるとショックだよ・・・」 「え、今迄にどんなのに貼られたんですか?」 「ええー、それを訊くの? 若気の至りのそれを~・・・」 「はい。聞きたいです」 「ああもう、3人で声をそろえて。ま、君たちは知らない本だよ。『水からの伝言』だけどね。信じる者シールが貼ってある本は、恐いもの見たさなのか何なのか、結構人気が出るから、選書者が「トンデモ」度合いを知ってて購入したならいいんだけどね・・・・。 でも、シールを張るのはいかにも「トンデモ」の本だけ。新説なのか珍説なのかは読者が決める」 「あのー、そのシールを貼られることで怒る人はいないんでしょうか?」 |
働く家。/OMソーラー協会
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タブー
![]() ![]() 「そうね、でもあたしなんかベテランの内じゃないわよ。 館長は2階でブラブラしながら、お客さんの評判がいい本を探し出すのが得意だし、なんかヨーリーブックスの本を全部見計らい本にしているんじゃないかと思うわ。 黒岩さんなんか出版後3カ月以上たった本しか選書対象にしないっていう、ベテランの意地の塊。 黒岩さんはどうも、町立図書館が買い洩らした本を狙っているみたい。黒岩さんの推薦した本って、買ってから3年以上経ってから館長賞を取ることがあって、唸らされるのよね・・・。」 「へええ」 唸らされる話に対して中学生3人が唸っているのが面白い。 「ああ、それとね、蔵書とかぶるの本の他にも、買ったらまずい本っていうのがあるから注意ね」 ![]() 「ところで、あなたたちは何が買ったらダメな本だと思う」 「エロ本?」 「占いとか、非科学的な本?」 「おや、男子二人の意見は一致してるわね」 布袋と青木は小声で『お前俺と同じこと言うなよ』『お前こそ』と言いながら肘でつつき合っている。 「まず、エロ本ですが、エロ本を購入本に推薦すると、館長に『この本をあなたの恋人に見せてもいいですか』と訊かれます。そのとき迷いなく『はい』と言えれば購入OKです。ヤオイ本もBLも同じ基準です。 次に占いですが、その本の表紙に『信じる者は救われないかもしれない』というシールを貼って閲覧に出します。UFOや心霊の本も同じです」 |
「奇跡」と呼ばれた日本の名作住宅50
![]() |
選書
![]() ![]() 「それはかなり難しい条件ですね・・・?」 「いいえ簡単よ。これから出る本を選書すればいいんだから」 「これから出る本? どうやって??」 中学生が激しく乗り出す。明石はブックマークしている近刊情報のサイトを次々に中学生に見せて行った。 「日本書籍出版協会も出版社も新刊を売るのに必死だから、情報は嫌というほどある。どこでいい情報をつかむかは企業秘密だから、ここで見た情報源を他のスタッフに言っちゃだめだからね」 片目をつぶる明石。中学生は「言っちゃだめ」が冗談なのか本気なのか半信半疑だ。 ![]() 「そうよ、青木君。スタッフはライバルなの。同じ本を館長に推薦すると、早く推薦した人が推薦者として登録されるからね」 「登録されるとどうなるんですか」 「その本の予約人数が50人を超えた時、またはその本の貸出回数が50回を超えた時に館長賞をもらえるの。これが楽しみっていうか励みなんだよね~」 「そしたら、本屋大賞とか直木賞の発表の時は秒速の戦いじゃないですか?」 「受賞作品は慣例的に新人職員に譲っているから戦いはないよ。でも大体において、新人のチャンスは受賞時点で単行本化されていなかった作品だけって感じかな。 賞の候補になった時点、またはその前に本が入っていることが多いから」 |
シルバー川柳5 確かめるむかし愛情いま寝息
![]() |
車番の仕事
![]() ![]() 「選書? 本を選ぶんですか?」 「そう。ナンセンス・ライブラリーに入れる本を選ぶ。今はコンピュータがあれば、どこででも選書ができる時代です」 「うわあ。仕事熱心ですね。これだけ暑いとダレませんか?」 「うん。まあ。人間だもの。目をあいて寝ているときもあるよ。雨の日と猛暑日は駅構内改札前で開店してもいいことになっているから、どうにか熱中症死は免れてる。気温10度以下の時も駅中操業よ」 「どうしていつも駅中にしないんですか?」 「ヨーリー駅北口は、町役場に行く人も町立体育館に行く人もよく通るところ。 ![]() 「宣伝効果は?」 「また、青木君はキツイ質問を」 そういいながら、明石は笑った。 「私たちがこの車で宣伝しているのはナンセンス・ライブラリーの存在だけじゃない。ヨーリー町は本を読むチャンスがある町だってこと。手の届くところに本があるってこと。それを知らせるために、私たちはここに店開きしてる」 他市からやってきた遠藤だけが頷き、他の二人は「町」単位の話になったところですっかり手が止まっていた。 「あの、選書ってどうやるんですか?」 遠藤が静かに訊いた。 「そうそう。その話をしようとしていたんだわ。 |
それでも建てたい!!10坪の土地に広い家/杉浦伝宗
![]() こういうのは好みの問題だとつくづく思う。 許される容積を使い切ろうという意思が、道路から見てもビシバシ伝わって来る建築です。 好みの問題で、私はこの傾向(ここまで私の領分だという主張をする家)があまり好きになれません。 |
ヒマな車番
![]() ![]() 橋上駅への昇り口で、防災の日イベントチラシを配っていた布袋と青木が戻ってきた。 「あらあらお疲れ様。見ていたわよ、あなたたちタクシプールで待っているタクシーの運転手さんにもチラシを配ったでしょう。 「だってこの駅、人と電車の本数が少な」すぎで閑なんですよ。タクシーの運転手さんも待つ身のつらさを知ってるから優しかったっす」 「サッカーって、ピッチにいる全員の動きを見る競技だもんね。いいところに目をつけました」。 「あのー、それで、普段はしないビラ配りをしてもこんなに暇なんて、普段は一体ここで何をしているんですか?」 「うーむ。キャッチャーは痛いところを突くわね」 「すいません。純粋に疑問だったんで」 ![]() 「しょうがない。じゃ、作業しながら話しましょう。チラシを半分に折って、ここにある全冊に挟み込むわよ」 作業がうまく流れ始めたところで明石は話し出した。 「お察しの通り、車番は結構ヒマです。だって本店が駅から3分かからないところにあるんだもん。歩いても来られる駅で陣を張る意味はあんまりないの。でもね、ヨーリー・ナンセンス・ライブラリーのペイントをした車がここにあることに価値がある。本に大した興味がない人の目にも、ナンセンス・ライブラリーが飛び込むようにここにいる。 車をここに置いている時間は幟(のぼり)だって立ててるしね。ちなみに幟は駅に入ってくる電車や出て行く電車が低速で走っているところから見えるように配置しています。 |
できる男は超少食/船瀬俊介
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