タイニー・ビレッジ その46
![]() ![]() 「それではお約束の、元お手洗いをお見せしないといけませんね」 ひよりがガイドらしく案内する。 「こちらが、元お手洗いです。 熊さんはまず、トイレを書斎にしたんですが、ドアは取り外してしまいました。その上、正面の壁を床から軒下までガラスブロックにしちゃったんです」 「たしかに、これだと外と繋がっている感じね」 「外が見えるようで見えない、見えないようで見える。ぼんやり繋がっている感じですね」 ![]() 「これですよ」 と言て、ひよりは置いてあるスーツケースを指さした。と、そのままひょいとかがみ、スーツケースからデスクを作り上げた。幅1mあるかないかの小さなデスクだ」 「市販品ですけどね」 そういうひよりの口ぶりは、市販品は芸がないとでもいいたそうだった。 「折りたたみの机がスーツケースの側板になっているのは面白いけど、机としてはチャチかな。悪いけど」 「はい。熊さんも自分で『名ばかりでも書斎を持ってみたかったんだ』と言っています。ここは名ばかりの書斎で、この机はもっぱらビレッジの催事に使っています。持ち運びの簡単さはスーツケース並ですから」 |
タイニー・ビレッジ その45
![]() ![]() 「大丈夫。熊さんはここで寝袋で寝てます」 「寝袋? 小さな可愛い家のドリームから、サバイバル小屋暮らしにシフトしてきてるような気がする・・・・」 「封筒型の寝袋はなかなかスタイリッシュですよ。熊さんは加齢臭を恐れているから、洗える寝具が一番です。合理的な暮らしぶりですよ。 それから天井を見てください。全面が木の格子で、きれいでしょう。冬はこの格子の上にテント素材の布を広げて、そう、部屋にふたをして、暖房効率をよくするんです。格子の枠になる木の太さが5センチ、穴の正方形の一辺も5cmです。格子天井の上に出られるように、下から押し上げて開けられる部分があります。 ![]() 「大丈夫。格子天井が大部分見えてるわ。それに、天井の格子は使い勝手がよさそう。ここに衣類を架けるのは、むしろ機能的とも言えるんじゃないかしら」 「好意的なコメントありがとうございます。熊さんが忙しくなると、なんでも洗濯ネットに入れて天井からつるしてしまうから、サンドバックの鈴なりに生っているみたいなんですよ。 では振り返ってこちらをご覧ください。玄関扉の両脇の壁には、飛行機内の収納棚と同じ、オーバーヘッド・ラックが付いています。ここには非常持ち出し袋、ヘルメット、冷蔵不要の非常食などが入っています」 ひよりが次の説明にかかっても、澄江は天井の格子のあらゆるところから荷物がぶら下がる様子を想像していた。 |
タイニー・ビレッジ その44
![]() ![]() 「確か横滑り出し窓っていう窓です。窓自体が庇になって雨は吹き込まないし、この小ささなら人間は出入りできないし、家の中から編戸の網を貼りつけているので虫も入りません。7月から9月まで、24時間開けっぱなしです。熊さんは無精窓と呼んでいます」 「ほおお」 「じゃあ玄関を開けますよ。この家一部屋しかないから玄関というより入り口ですけど。はい。」 はい、と言われても、澄江はすぐには声が出なかった。 「・・・・・・・、、ひ、雛壇?」 まずモルタル塗りの土間があり、土間の部分を幅50cmの帯状に残して、床が貼られている。 ![]() 古い欄間を組み込んだ透かしの引き戸。引き戸の奥に何やら色々なものが収納されている。 「きれいでしょう?この木彫りの扉。この扉がないと、安心して寝られないって熊さんが言ってました」 「そうよね、それはそうでしょう。地震が来たら荷物の下敷き確実だものね、この戸がないと」 「はい。そしてここが寝床になります」 |
タイニー・ビレッジ その43
![]() ![]() 「家の中から取り出すより、外から取り出した方が便利なものがここに置いてあります。熊さんの家は家だかコックピットだかわからないくらい空間が少ないので、庭とテーブルと椅子とタ―プが春秋大活躍します。キャンプセットはタ―プやダッチオーブンもあって、熊さんのおもてなしスペシャルの時使います」 ひよりが次に開けたのは、普通のドアの半分ぐらいの幅のドア。そこには、長柄草かきとスコップ、竹箒が入っていた。確かにこれは家の外から取り出せた方が便利だ。 首を突っ込んで見ると、キャンプ用品とスコップの間に仕切りはない。単に出し入れの便宜のために複数のドアが付いているらしい。 「子どもに触られると危ないものは棚の上に置いてあります。私だと鍵の部分に手が届かないので、荒川さんお願いします」 ![]() 「もともとあった出窓が新しい壁に組み込まれて、出ない窓になっているのも、熊さんの発明です。出ない出窓の窓下はゴミ箱で、外から扉を開けてゴミ出しができます。出窓の出っ張り部分の底がスライド式になっていて、そこを開けると家の中からゴミ捨てが出来るんです」 「それはすごい!」 「でしょう?すごいでしょう?熊さん」 まさしく我が意を得たりという感じで、嬉しげなひより。この子もまだ子ども子どもだったと、澄江はなんだかほっとした。 「じゃあ、さっそく中を見せてもらいましょう」 「いえ、待って、待って荒川さん。他の窓も戸口も見て。ほらほら」 |
タイニー・ビレッジ その42
![]() ![]() 蓬生が手を振って去り、蓬生に声が聞こえなくなったところで、ひよりが言った。 「ね、ヨモギばあちゃん、回覧板持って来なかったでしょう?」 「そうだねー。でも、私もよくやるから笑えないわ。 それで、ひよりちゃん、‘陽だまり’って一体何を作ってるの? ヨーリーランドの屋上で」 「‘陽だまり’は干し野菜を作ってます。切干大根、干しシイタケ、干しエリンギ、干し人参、干しピーマン、干しキュウリ、白菜にチンゲンサイ、いろいろです。最近は干し肉も始めました。 町子さんやヨモギばあちゃんは、株式会社いろどりをイメージして目標にしているみたいなんです。‘いろどり’はご存知ですか?」 「もしかして葉っぱを売ってるところ?いわゆる"つまもの"の」 ![]() 何しろ今は鍵をあけましょう。どんどん行きましょう」 そう言って、ひよりはどんどん鍵を開けた。 最初のドアを開けてびっくりだったのは、すぐに次の壁が見えたことである。家の外壁のさらに外側にもう1枚壁を設けたのであろう。軒は新たに設けた壁から僅か15センチメートルくらいしかせり出していない。 このせまい隙間に入っているのは折りたたみのアウトドアテーブルと椅子、それから・・・・? 「ここにあるのはキャンプ用品」 |